人口14億人を抱える中国は、超巨大で魅力的なマーケットだと言えます。越境ECにとっても有力な出店先で、現に日本最大の取引国です。
2018年、日本の越境ECは、中国からの購入額が1兆5,345億円になりました(*)。日本国内のペット市場と同程度の規模と考えると、いかに大きな金額かお分かりいただけるのではないでしょうか。
なおかつ中国のネット利用者数は未だ6割程度であり、それだけ発展性も秘められています。
本記事では、中国向け越境ECについて、現状や利用実態、課題の他、シェア上位のモール情報などを解説します。運用を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
*:経済産業省/平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
中国人による日本の越境EC利用の現状
はじめに、中国人による日本の越境EC利用の現状を押さえておきましょう。市場やユーザー理解を深める上で、必ず必要になる情報ばかりです。
ここでは、
①2018年の消費額と今後の見通し
②売れ筋商品
③購入者の属性
④主流の決済手段
の4つを解説します。
2018年の消費額:1兆5,450億円、今後も順調に成長
出典:経済産業省/平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
冒頭でお話したように、日本の越境ECは、2018年に中国からの購入額が1兆5,345億円を記録しました。
これは、同年の中国人による訪日旅行消費額とほぼ同じ数値になります(*1)。インバウンド市場が急成長を遂げる中、中国向け越境ECもそれに匹敵する規模にまで成長しているのです。
今後の成長性も豊かで、毎年15%前後の成長が予想されています。2022年には2兆5,144億円へ拡大し、これは日本の化粧品市場に並ぶ規模です。マーケットのポテンシャルが伺えますね。
中国のEC利用者数は6億1,011万人と、膨大な人数ではありますが、国内人口の43%程度に過ぎません。今後ネットが都市部以外にも普及し、EC利用が日常となる世代が台頭すれば、2022年以降も右肩上がりの成長を続けるでしょう。
また、中国では2019年1月に「電商法」という法律が改正され、個人バイヤーによる非正規ルートの販売や並行輸入、転売などが規制されました(*2)。
これによって、ユーザーは正規品を見極めやすくなります。企業にとっては、個人バイヤーというライバルが減るため、越境ECを出すメリットが大きくなりました。
市場の将来性が良好で、なおかつ制度面も整ってきているため、今は中国向け越境ECを展開しやすい環境だと言えるでしょう。
*1:観光庁/訪日外国人消費動向調査(2018年確報)
*2:ECのミカタ/電商法で中国越境ECに追い風!新制度の影響や恩恵について、越境EC支援のプロ「24ABC」に詳しく聞いた
売れ筋商品:1位は化粧品、2位は食品
出典:経済産業省/平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
中国向け越境ECの売れ筋商品は、1位・化粧品、2位・食品、3位・衣類となっています。化粧品は爆買いでも話題になりましたが、依然として人気があるようですね。
化粧品や食品のような、人体に直接触れるものがよく売れる理由として、中国人は自国製品を信用しておらず、メイドインジャパン製品を信頼している点が挙げられます。
つまり、彼らが日本製品に求めているのは、第一に品質や安心感なのです(*)。情報発信やプロモーションをする上で、押さえておきたい訴求ポイントだと言えます。
購入者の属性:スマホが大半、インバウンドとの関連も
中国人の越境EC利用における特徴の1つは、スマホ経由の割合が非常に高いこと。国内全体のEC利用者数6億1,011万人のうち、97%にあたる5億9,191万人がスマホで買い物をしています(*1)。
日本だと全体の81.3%に留まる点からも、中国のスマホユーザーの多さが見て取れますね。(*2)
中国ではPCの普及を経ずに、安く手に入るスマホが急速に普及しました。さらにモバイル決済導入が国策で進められ、こうした背景がEC利用にも反映されているわけです。
また越境EC利用のきっかけは、「訪日旅行で買った商品をリピートしたいから」という層が、全体の21.6%となっています。爆買いが沈静化した現在、インバウンドは起点であって、2回目以降の購入は越境ECへ移っているわけですね。
よって訪日旅行者が増えれば、越境ECの利用者も増加すると見られます。すでにインバウンドビジネスをしているのであれば、越境ECのアピールは欠かせません。
一方で、「知人などの口コミが購入のきっかけになった」という層が、全体の24%ほど存在します。日本を旅行したかに関わらず、SNSやブログを通じて興味を持ってもらえる可能性があるので、口コミを集められる情報発信も重要になるでしょう。(*3)
*1:MUFGバンク(中国)有限公司/2018 年の中国のネット普及率は 6 割 ~インターネットと実体経済は深く融合へ
*2:MMD研究所/2018年度版:スマートフォン利用者実態調査
*3:経済産業省/平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
主流の決済手段:第三者決済やデビットカードなど
中国人がよく使う越境ECの決済手段は、1位がAlipay(支払宝)やWeChat Pay(微信支払)といった第三者決済です。
第三者決済の場合、購入者は店舗ではなく決済サービス提供会社へ代金を振り込みます。店舗は決済サービス提供会社から代金を受け取りますが、それができるのは購入者の元へ商品が到着してからです。
手間がかかるものの、購入者は悪質な店舗を、店舗は偽札や偽造カードによる被害を避けられるといったメリットがあり、こうしたトラブルの多い中国では信頼される決済方法となっています。
2位はカード決済で、銀聯カードに代表されるデビットカードがクレジットカードよりも普及しています。3位のクイック支払いは、デビットカードと似た方式です。
これら事情を踏まえて、利用率の高いAlipayとWeChat Pay、そして銀聯カードの3つには対応しておきましょう。馴染みのない支払い方法は敬遠され、購入率が下がってしまいます。
なお同じ中国国内でも、歴史的な経緯から、香港ではPaypalやクレジットカード決済が主流です(*)。越境ECのターゲットとして香港も無視できませんので、本国との違いに注意してください。
中国向け越境ECの仕組み、システム
中国で越境ECを展開する場合、①保税区モデルか②直送モデルか、2種類の販売方式からどちらかを選ぶことになります。かかる税もそれぞれで異なるので、必ず理解しておかなければなりません。
加えて特定ジャンルの商品は、出品の際にCDFAによる認可やCCC制度への適合が求められます。
これら販売方式と規制について、詳しく見ていきましょう。
販売方式①:保税区モデル
保税区モデルは、「保税区」という中国国内で設定された場所へ倉庫を設け、そこへ商品を保管し、受注後に倉庫から発送する形態をとります。
近年整備された仕組みで、①納期が早い、②発送単価が低いといったメリットがあります。また、現地倉庫で商品を保管する形態は、それなりに大きな数量を扱う際に有利です。
その反面、倉庫の固定費がネックになる他、不良在庫が出た場合は中国国内の方に則って処理しなければならないといった課題もあります。
かかる税金は、日本の消費税にあたる「増値税」と、嗜好品に適用される「消費税」の2つです。
2019年7月現在、増値税は13%、消費税は品目によって3~45%となっています。保税区モデルの場合、これらを×0.7した値が、実際にかかる金額です。(*)
たとえば服や食品だと、増値税だけが適用され、13%×70%=9.1%が商品代金に上乗せされます。
輸入関税がかからないぶん、日ごろ中国国内で買い物をする時と同じ計算で済みますので、輸送費を抑えられるわけです。これも大きなメリットだと言えます。
*:取引限度額:1回あたり5,000元・年間2万6千元以内。超過すると一般貿易と同じ税率が適用される。
販売方式②:直送モデル
直送モデルをとる場合、消費者と販売会社が直接売買を行います。
こちらは現地倉庫から発送しないぶん、保税区モデルよりも納期が長くなる他、受注ごとに国境を越えて配送するので送料も高くなりやすいです。
ただ、①現地倉庫の固定費がかからない、②不良在庫のリスクが小さくなるといったメリットもあります。
これらの特徴を鑑みると、小規模な取引で有利になる方式だと言えるでしょう。
税金に関しては、「行郵税」という税がかかります。品目に応じて13%、20%、50%の3段階があり、嗜好品ほど高税率です。(増値税や消費税は必要なし)
保税区モデルと直送モデルのどちらにするかは、扱う商品や点数次第になりますので、各モデルの特徴を理解した上で自社の状況と照らし合わせて判断しましょう。
出品許可制度:CDFA、CCC
中国で特定ジャンルの商品を売る際、CFDAという機関またはCCC制度による許可を受けなければなりません。
✓CFDA・・・化粧品・医薬品・健康食品・医療機器
✓CCC制度・・・自動車関連製品・電気製品・IT製品・玩具
上記に該当する商品は、各制度に基づく申請と許可が必要ですので、要所要所で専門家の助言を受けながら対応しておきましょう。
中国向け越境ECの課題・リスク
次に、中国で越境ECを運用するときのリスクを解説します。
ショップの評判はもちろん、店舗運営そのものに関わるものですので、理解と対策をしておきましょう。
中国の法律理解と順守
前述の電商法、販売モデル、認可制度をはじめとする法律に則ることは、ビジネスの鉄則中の鉄則です。しかしJETRO公表の資料によると、法令違反で罰金や消費者への賠償を言い渡されたケースが少なくありません。
以下の事例は越境ECではないものの、他人事ではないので、上の資料からご紹介しておきます。
ラベル表記の不注意で賠償・・・
1つめは、商品ラベルの表記に問題があり、賠償を言い渡された事例です。
日本から輸入した食品を販売する中国の会社が、ラベルに中国語でこのような表記をしました。
・保質期:1年間
(日本の賞味期限・消費期限にあたる。今件は製造日から1年間)
しかし、もともと付いていた日本語表記のラベルには、
・製造日:2018年11月14日
・賞味期限:2019年11月8日
と記載されていたのです。そう、中国語ラベルに反して実際の保質期は1年間未満であり、これが問題になりました。
消費者からクレームが入り、「虚偽的な表示」が法に反するとして、商品代金の10倍を賠償する結果になったのです。
担当者の不注意が原因だったようですが、代償は大きなもの。ラベル表記は、語弊やミスのないよう気を付けなければなりません。越境ECの場合、サイトでの説明と商品ラベルとの整合性には特に注意しましょう。
広告表現が問題になり、掲載停止と賠償・・・
2つめは、広告表現が法に抵触し、掲載停止と賠償が科された事例です。
とある企業の日本本社が、商品の広告文に「最先端技術を利用」・「最高技術」といった表現を含む資料を作成しました。これを受け、中国での販売を担当する子会社は、本社資料をそのまま中国語へ訳し、サイトにコピーとして掲載。
しかし上記表現は、中国では禁止されていたのです。
工商局という行政機関が「広告法上禁止される表現の使用」と認定し、本件の広告掲載は停止され、20万元(約315万円)の賠償まで科されました。
日本ではよく見る広告表現が、中国だとNGなケースは多々あります。たとえば、
トップクラス、最大、最高、最高級、最低、最安、最適、最新、ランキング1位・・・
こういったコピーは、中国においては違法です。
よって日本語の文章をそのまま翻訳するのではなく、現地の法に沿った文言へ修正しなければなりません。中国国内でWeb広告を打ったり、SNSでキャンペーン告知をしたりする際は、細心の注意を払いましょう。
クレジットカードや決済アプリの不正利用
中国に限った話ではありませんが、クレジットカードや決済アプリの不正利用は、自社の信用に関わる重大な課題です。
こうした犯罪の手口は年々巧妙化しており、被害額も増加しています。特に中・小規模なサイトは、「わざわざ自社を狙わないだろう」といった漠然とした考えから、セキュリティが甘くなりがちです。
対策として、3Dセキュアや検知システム、セキュリティコードなどがあります。いずれも費用や精度などが一長一短ですので、自社のリソース内でできる限りの方法をとりましょう。(*)
*:ECのミカタ/EC事業者を取り巻く詐欺・不正利用の実態と対策
配達遅延や荷物の紛失・破損
商品がお客様の元へ届くまでに何週間もかかったり、配達中に紛失・破損してしまったりするリスクは、通販につきものです。
発送前に検品をきちんとしていれば、配達業者によるケースがほとんどですので、こうした事態は避けようがありません。
とは言え件数を少なくするために、①信頼できる業者かどうかしっかり見極める、②トラブル時の決め事を利用規約に明記しておく、といった対策は必須です。
米中貿易摩擦
TVや新聞で報道されているとおり、米国と中国の対立が、経済の先行きを不安定にしています。
中国の景気が悪くなれば、もちろん越境ECも影響を受けるでしょう。
国家間レベルの問題であるため、一企業がとれる対策はありませんが、両国の動向とマーケット情報には目を光らせておかなければなりません。
中国向け越境ECの出店方法:大手プラットフォーム利用がおすすめ
出典:経済産業省/平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)
中国向け越境ECの出店方法を解説するにあたって、同国の越境ECサイトシェアを上図に示しました。
1位:網易考拉海購(kaola.com)
2位:天猫国際(Tmall Global)
3位:京東全玉網(JD Worldwide)
4位:唯品会(vip.com)
となっており、これら4サイトで全体の75%ほどを占めます。
企業の独自サイトは、非常に少ないシェアであることが分かりますね。ちなみにEC世界最大手のアマゾンは、中国ではシェアを1%もとれずに撤退しました。
中国の消費者は一般的に、商品検索をする際、検索エンジンではなくECモールの検索機能を使います。
ECモールへ出店していないと、そもそも検索にひっかかることすらないというわけです。よって中国向け越境ECを始めるのであれば、ECモールのプラットフォーム利用がほぼ必須だと言えます。
しかし近年は、各モールの出店基準が厳しくなってきており、大手プラットフォームを利用できないケースも出ています。
もしECモールへ出店できないのであれば、現地のEC事業者やパートナー企業と卸売り契約を結んだり、店舗運営を委託したりする方法があるので、諦めずに検討してみてください。
いずれせよ、最適な出店先を選ぶには、扱う商品はもちろん市場や法律といった様々な情報を整理して見極めなければならず、これを自社単独で完結させるのはかなり難しいです。客観的かつ迅速な計画進行のために、必要に応じて専門家や外部支援業者のサポートを受けることが望ましいと言えます。
中国向け越境ECの集客:SNSとWeb広告がカギ
中国市場で集客をする際にまずやっておきたい施策が、ドメイン取得やサーバー開設などの手間がかからず、低コストで情報発信ができるSNSアカウント運用です。
シェア上位は、「WeChat」と「Weibo」。ユーザーが多いぶん、潜在・顕在を問わず顧客へリーチしやすいので、積極的に使いましょう。
マツモトキヨシが運用するWeChatとWeiboのアカウントは、投稿の参考になる良い事例です。同社はWeiboでフォロワー4万人を獲得し、WeChatでも1つの投稿が数万回の閲覧数を記録しています。
上2つのSNS以外だと、近年は20代の女性の間で、「小紅書(RED)」というSNSとECサイトを合体させたサービスが流行しています。
SNSとしてはInstagramのような使い心地で、投稿のメインは画像です。さらに各画像へカート機能を付けられるため、RED内だけで販売を完結させられます。若い女性をターゲットにするのであれば、REDでの情報発信も欠かせません。
一方コストがかかるものの、Baiduや上記SNSへの広告出稿も有効です。ターゲットを指定でき、比較的コストを抑えられるWeb広告は、プッシュ型のアプローチとしてぜひ活用したいところ。
言語については、日本語を元に中国語へ翻訳するだけだと、どうしても細かいニュアンスが伝えきれません。従って、中国語に精通しているのはもちろん、お客様の性質も深く理解した人材に担当してもらうのが理想 です。
SNSもWeb広告も、消費者の購入を促すきっかけで上位に入っているため、ぜひ運用を検討してみてください(*)。
インフルエンサー発のプロモーションは慎重に
中国人が越境ECで買い物をするきっかけとして、口コミは非常に重要な役割を持っています。
ただし、その発信源には注意が必要です。
中国の検索エンジンシェア1位・Baiduのレポートによると、口コミは「家族・友人・知人」によるものが購入へ結びついているのであって、「インフルエンサーや有名人」の声は購入動機になっていません。
要するに、企業が仕掛けた広告的な口コミは、消費者に見抜かれているわけです。消費者が重視するのは、身近な信頼できる人の情報です。
近年の中国市場では、特定分野に精通したKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるタイプのインフルエンサーを活用したマーケティングが注目されていますが、これだけでは効果的な施策になりにくいことを念頭に入れておきましょう。
他のプロモーションや情報発信などと組み合わせることが肝心です。
まとめ
今回は中国向け越境ECについて、マーケットの現状やリスク、おすすめの出店先などをお話しました。
2019年現在でも、中国のネットユーザは人口の6割に留まります。回線がさらに整備されれば、EC利用者も増加していくでしょう。
また2020年の東京オリンピックは、インバウンドを起点にした越境EC利用を加速させると期待されています。発展の余地は日本市場の数倍になりますので、海外展開を視野に入れている方は、ぜひ中国へのEC出店を考えてみてください。
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